明日香出版社ビジネス本「口コミで儲ける」に掲載されました


大阪に「ジャパンビルテック」というビルメンテナンス業者がいます。ここの社長は若くして勤めていた会社を辞め、自分で仕事を始めました。別に一念発起、「一旗上げてやろう」というほどの決意を持っていたようでは有りませんが、とにかく地道に頑張ってきました。

始めは、他の業者と何ら変わることなく、ビルや店舗の清掃をやっていました。しかし、後発の小さな会社がダスキンなどの大手チェーン傘下にも入らず、たった一社で他の業者と同じことをしていても、売上を伸ばせません。いつまでたっても下請け仕事ばかりになります。別に下請け仕事でも利益はあるのですが、自分の生命線を元受会社に握られているような感じがします。これでは何のために独立したのかわかりません。

この業界で下請けをする会社は、社用車に自分の名前を入れません。それは元受け会社に対する遠慮からです。ユーザーは元受けに発注しているのですから、やって来た作業員が元受けと違う名前の作業服を着ていたり、違う名前の入った車であったりすると、元受けの立場がまずくなるだろう、という考えなのです。

ところが「ジャパンビルテック」は社用車に堂々と自社の名前を入れ、作業服の名札にも社名を明記しました。仲間内では結構衝撃的な出来事だったようです。

社長の考えは、「社名を明らかにしない仕事は、ユーザーとの接点が全く存在しない。なぜならユーザーとの接点は元受けにしかないからだ。すると仕事の責任も元受けが持つことになるから、ついつい作業に対する思い入れが薄くなる。仕事に責任を持つためにも社名を明らかにするべきだ。それがひいては元受けのためにもなる。」ということでした。

元受業者の全てがこの考えに賛同したわけでは有りませんでしたが、従業員の意識を変えるには十分な方針でした。

無論、これだけで良い「口コミ」が起きたのではありません。「口コミ」の前段階ともいえる「注目」を浴びたのです。

次に社長が打った手は、カテゴリーを壊すことです。どの業界でもそうですが、いったんその業界に足を踏み入れると、それ以外のことにはなかなか手を出さないものです。魚屋が野菜を売らないのと同じです。しかし、八百屋が魚や肉を扱ってスーパーマーケットになっていったように、あくまでユーザーニーズに答える上では、バリアフリーが望ましいのです。

彼は、フロアー清掃の注文を受けている専門店に、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどの雑貨品を届けるようにしました。販売店等はどこでもそうですが、売ることに忙しく、備品などは業者に任せきりのところが多いものです。しかし、文具業者でもマット業者でも、利の薄いトイレットペーパーやティッシュペーパーなどまで手配してくれるところは多くありません。場合によっては、店員が薬局やホームセンターに買いに行く事もあるのです。

そういったちょとした隙間を彼は埋め始めたのです。店によってはニーズは違いますが、できるだけそれに応えるようにしました。

まずその専門店のチェーンで「口コミ」は始まりました。「ジャパンビルテックは良くやってくれている」といった評判が立ちます。このように細かいところに気を配る会社ですから、本業のフロア清掃も全体的には他の業者と変わりませんが、細かいところまできっちり掃除されています。

客のニーズをつかんでいるということは、客とのコミュニケーションも良く取っているということです。
少しくらい安くする業者が現れても、簡単に店も変更はしません。信用に裏打ちされた「口コミ」の威力を目の当たりにした思いです。

「口コミ」はどんなところにも起こります。そして、それが悪いことであるほど、より広く、早く、そして増幅されていきます。逆に、良い「口コミ」はなかなか起きてはくれません。良い「口コミ」を起こすために広告や宣伝などの仕掛をすることも多々あります。しかし、肝心なのはそれが必要以上に脚色されていないことです。

せっかく良い「口コミ」が起きても、それが実体のないものであればアッという間に悪い「口コミ」に変わってしまいます。そして、その悪い「口コミ」は良い「口コミ」の何倍もの勢いで広がります。

本来「口コミ」は自然発生するものです。どのような業種・業態にあっても「リサーチによるユーザーニーズの把握」「ポジショニングと明確なビジョン」、そして「仕事に対する誠実さ」があれば、自然に良い「口コミ」が起きてきます。そういった「口コミ」は長期間に渡って広範囲に広がっていくものなのです。